大きなのっぽの古時計
のっぽというほどのっぽではないが、
古くて大きな時計。おじいちゃんの時計。
おじいちゃんの生まれた朝にやって来たのかどうかは私にはわからないが、私が生まれたときにはそこにあった。
古くて大きな時計。
その時計の扉をおじいちゃんはそっと開ける。
そして中から金色のカギを取り出しネジをまく。
ぎりっぎりっぎりっぎりっ。
とてもとても大切そうに。
私もやってみたかったけれど、
こどもにはさわらせてもらえなかった。
ネジをまいて扉を閉めると振り子が揺れる。
右、左、右、左、チクタク、チクタク、
時を刻み始める。
一時間に一回、ぴったりの時間に、
ボーンボーンと時計は時を告げる。
だんだん時間がずれてくると、
おじいちゃんはネジをまく。
ぎりっぎりっぎりっぎりっ。
とてもとても大切そうに。
そのたびに私は、おじいちゃんの隣に座り
その様子を眺める。
いつか大人になったら、
私にまかせてもらおうと心に決めて。
その時計もいつの間にか動かなくなった。
壊れてしまったのか、それともおじいちゃんがいなくなってしまったからなのか。
時計が時を刻まなくなっても、
時が止まってしまうようなこともなく、
当たり前に時は流れていく。容赦なく。
かわいいこどもだった私もすっかり大人になった。
結局私はあの時計のネジをまいてみたのだろうか…?
おじいちゃんの時計は、今もまだそこにある。
当たり前の顔をして。
いつ見ても10時10分のままで。