ある旅の物語 1
「旅とは素晴らしいものだよ」旅人は言った。
「旅の素晴らしいところはいろいろあるが、
綺麗な景色を見、空気を肌で感じる。
それに何より仲間と出逢える。」
嬉しそうに語る旅人の瞳はキラキラと輝いて見えた。
「とても言葉で語り尽くせるものじゃない。
君も旅に出てみたらどうだい?」
『それもいいかもしれない』
そう思った僕は旅に出てみることにした。
何の準備もせず、
思いつきで出発してしまったものだから、
進む方向があっているのかさえわからない。
そもそも目的地を決めていなかったことに
今更気付いた。
旅人の言う旅の素晴らしさを見て感じる。
それを当面の目的としよう。
初日は張りきって歩いた。
未知の世界は不安ではあったが、
それ以上に新鮮な魅力があった。
道に迷い、途中で引き返したり、
転んで膝をすりむいたり。
そんなことさえも楽しく感じた。
その夜、旅に出たことを旅人に報告した。
予想通り旅人は喜んでくれた。
でも、次の日は動くことができなかった。
その次の日も、そのまた次の日も。
「旅はもうやめたのかい?」
旅人から連絡が入った。
「そういうわけじゃないのですが…」
何もわからないうちは闇雲に進むことができた。
だけど、ほんの少しでも知ってしまうと、
考え過ぎてどう動いていいのかわからなくなってしまったんだ。
「とりあえず進めばいい。少しずつでも毎日ね」
旅人はその言葉とともに一冊の本をくれた。
その本には、旅人が旅の中で得た知識がぎっしりと詰まっていた。
『もう少し進んでみよう』
僕はそう思うことができた。