TEBUKURO’s diary

まだ出会っていないあなたへの手紙

ありがとう。

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ありがとうデニ。うちに来てくれて。
ありがとうデニ。上目遣いの可愛い顔で。
ありがとうデニ。守ってくれて。
ありがとうデニ。話を聞いてくれて。
ありがとうデニ。がんばってくれて。

ゴメンねデニ。帰るのが遅くなって。
ゴメンねデニ。寂しい思いをさせて。

ちょうどおばあちゃんが帰ってきてるから。
おばあちゃんにデニのことお願いしたから。
だから大丈夫。大丈夫だからね。

ありがとう。ありがとう。デニ。

オムレツ

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この前の土曜日、図書館に行ったときのこと。

木陰で年配の女性が座り込んでいるのに気づいた。
 
「大丈夫ですか?」思わず声をかけたら、
「大丈夫よ。荷物が多くて少しくたびれちゃったから休憩してるだけなのよ。」
彼女の側には、ひとりではとても持ちきれないくらいの荷物。
聞くと、これからお孫さんに会いに行くそうだ。
「喜ぶ顔を想像したら、ついついあれもこれもってなっちゃって…」彼女は幸せそうに微笑んだ。
 
電車に乗るというので、
私は駅まで荷物を持ってあげることにした。
 
駅に着くと彼女は
「ありがとう。とても助かったわ。お礼をしなくちゃ…」
そう言いながら大きな荷物の中をのぞき込んだ。
「大きな箱と小さな箱、どちらがいいかしら?」
 
「お礼なんてとんでもないです」
って言ったんだけど、
「若いコは遠慮なんかしちゃダメよ」って。
 
「じゃあ小さな箱の方を…」言い終わらないうちに
小さな箱は私の手の中にあった。
おひさま色の箱はとても綺麗だった。
「ありがとうございます」
と顔をあげると、もうそこに彼女はいなかった。
 
箱にはフタがついていた。
カパっとそれを開けてみると、
空色のふかふかの綿の真ん中に
白くてまあるいものが入っていた。
何だろう?
よく見るとフタの裏側に文字が刻まれていた。
金色の文字。
 
 
たまごのたね
 
 
急に胸がドキドキして、手には汗がにじんできた。
落として割れてしまっては大変なので、
丁寧にフタを閉め、両手でしっかりと持った。
走り出したい気持ちをどうにか抑えて、
ゆっくり慎重に家まで持って帰った。
 
とりあえずその箱をテーブルの真ん中に置いて、ホームセンターへと急いだ。
一番大きなプランターと一番良さそうな土を買って帰り、割れないようにそーっとそーっと
たまごのたねを植えた。
 
それから毎日欠かさず水をあげている。
五日目の今日芽が出ていた。
小さな小さなかわいい芽。
 
たまごがなったらオムレツをつくろう。
おさとうとミルクを入れて。
 

大きなのっぽの古時計

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うちにもそれはある。
のっぽというほどのっぽではないが、
古くて大きな時計。おじいちゃんの時計。
おじいちゃんの生まれた朝にやって来たのかどうかは私にはわからないが、私が生まれたときにはそこにあった。

古くて大きな時計。
その時計の扉をおじいちゃんはそっと開ける。
そして中から金色のカギを取り出しネジをまく。
ぎりっぎりっぎりっぎりっ。
とてもとても大切そうに。
私もやってみたかったけれど、
こどもにはさわらせてもらえなかった。

ネジをまいて扉を閉めると振り子が揺れる。
右、左、右、左、チクタク、チクタク、
時を刻み始める。
一時間に一回、ぴったりの時間に、
ボーンボーンと時計は時を告げる。

だんだん時間がずれてくると、
おじいちゃんはネジをまく。
ぎりっぎりっぎりっぎりっ。
とてもとても大切そうに。

そのたびに私は、おじいちゃんの隣に座り
その様子を眺める。
いつか大人になったら、
私にまかせてもらおうと心に決めて。

その時計もいつの間にか動かなくなった。
壊れてしまったのか、それともおじいちゃんがいなくなってしまったからなのか。

時計が時を刻まなくなっても、
時が止まってしまうようなこともなく、
当たり前に時は流れていく。容赦なく。
かわいいこどもだった私もすっかり大人になった。

結局私はあの時計のネジをまいてみたのだろうか…?

おじいちゃんの時計は、今もまだそこにある。
当たり前の顔をして。
いつ見ても10時10分のままで。



0 THE FOOL

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朝、目が覚めたらなぜだかとても気分が良かった。
まぶしい太陽のせいなのか。
爽やかに吹く風のせいなのか。
そんなことはどうでもいい。
じっとしているのがもったいない。
バナナを食べ、ミルクを飲んだら早速出かけることにした。

僕が歩き出すと、
いつものようにゼロがあとをついてくる。
ゼロと僕とは大の仲良しだ。
いつも一緒。今日も一緒。
ゼロはとても頼りになる。

この前、虹の根っこを探して走ってたとき、
危うく崖から落ちそうになったけど、
ゼロがズボンの裾に噛みつき
引っぱって助けてくれた。

ズボンの裾が破けちゃったから、
もう片方の裾も破いたら、
なんだか前よりかっこよくなって、
うれしくてスキップしたい気持ちになった。

今日の行き先は決めてないけど、
僕とゼロが一緒ならどこへでも行ける。
きっと今日もおもしろいことが起こるはずだよ。

ある旅の物語 3

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旅人を呼び出すのはいつも深夜になってからだった。旅を終えてひと息つき、今日の旅を思い返す。
旅人もこの時間ならもう旅を終えているに違いない。そんな時間に。

ただ今日はいつもより早く旅を終え、いち早く報告をしようと、まだ明るい時間に呪文を唱えてしまった。
旅人はきっとまだ旅の途中だろう。すぐには来てくれないはずだ。
そう考えた僕は明日の準備を始めた。

気がつくといつもの時間。あわてていつもの場所に行ってみると旅人はもう来ていた。

「あなたの旅は今日も素晴らしかったようですね」
僕がそう言うと旅人は満足そうな表情を浮かべた。
「あの彼にもほめられた。彼の才能は本物だよ」
と得意げに笑っていた。
「僕も彼のことはすごいと思います。憧れています」
「彼と出逢えたことは幸せだった。君にとっても幸せなことだと思うよ」

和やかに談笑していたのだけれど、
旅人は急に真顔になり僕の目を覗き込んだ。

「ところで…」
たっぷり間をあけて、僕の心の中を探るように言った。
「今日は私のことを呼びだしてから何をしていたんだい?」
「明日の準備をしていました」
「私は旅の途中だったが、君のためにそれを放り出してあわててかけつけたんだよ」
旅人は笑顔でそう言ったけど、その目は笑っていなかった。
「すみません。あなたはすぐには来れないと思って…」
僕はあわててあやまった。
「私は毎日疲れている。にもかかわらず君のためにいろんなことをしてあげた。君の旅についてもほめてあげた。ほめるようなところが何ひとつないときでさえね。そのうえ、少しでもはやくアドバイスをしてあげようと飛んで来たのに、君は平気で私を待たせることができるんだね」
「ごめんなさい。でも…」

「言い訳はいらない!まったくバカにしすぎだ!」
旅人は急に立ち上がり
顔を真っ赤にして大声でどなった。
いつもは優しい目がみるみるつり上がる。

僕は旅人に、どうにかして怒りをおさめてもらおうと必死でいろんな言葉を投げかけてみたけれど、どれも旅人には届いていないようだった。

旅人の顔が赤から黒に変わり、
つり上がった目には赤い光が揺らめいている。
わなわな震えるその体がだんだん大きくなってきたので、僕は思わず目を閉じて頭を抱え込んだ。

どれくらいの時間がたったのだろう。
ほんの一瞬なのか、1日くらい経過してしまっているのか僕にはわからなかった。
気がついたときには、旅人は怒りのオーラを残したまま姿を消していた。

僕は放心状態でしばらく動けないでいた。
旅人があんなにも怒った理由を考えている。

僕は旅人とは対等のつもりでいた。
だけど、それは僕の勘違いだった。
旅人は遙か彼方の上空から、
僕のことを見下ろしてくれていたのだ。
僕のために…。


僕はもうあの呪文を唱えることはない。
旅人からもらった本は燃やしてしまった。
暗闇の中、赤く揺れる炎は
僕がこの旅で一番最初に見た
美しい景色だった。

ある旅の物語 2

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旅人からもらった本の最後のページには、
旅人を呼び出す呪文が書かれていた。

それからは毎晩、その呪文を使い旅人を呼び出した。

旅人は僕の旅をほめてくれた。
今日はうまくいったなというときはもちろん、
もうダメだーって落ち込んでいるときでさえ。
そのおかげで僕は調子に乗って
今まで旅を続けてこれたのかもしれない。

なかなか思うようにいかない僕の旅に
旅人はいろんなアドバイスをくれた。
「仲間をつくるといい。
私は素晴らしい仲間に出逢えたよ。
彼はとても素晴らしい。
彼と出逢うために旅をしていたと言ってもいいくらいに」
旅人は遠い目をしながら熱く語っていた。

ある旅の物語 1

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「旅とは素晴らしいものだよ」旅人は言った。
「旅の素晴らしいところはいろいろあるが、
綺麗な景色を見、空気を肌で感じる。
それに何より仲間と出逢える。」
嬉しそうに語る旅人の瞳はキラキラと輝いて見えた。
「とても言葉で語り尽くせるものじゃない。
君も旅に出てみたらどうだい?」
 
『それもいいかもしれない』
そう思った僕は旅に出てみることにした。
 
何の準備もせず、
思いつきで出発してしまったものだから、
進む方向があっているのかさえわからない。
そもそも目的地を決めていなかったことに
今更気付いた。
 
旅人の言う旅の素晴らしさを見て感じる。
それを当面の目的としよう。
 
初日は張りきって歩いた。
未知の世界は不安ではあったが、
それ以上に新鮮な魅力があった。
道に迷い、途中で引き返したり、
転んで膝をすりむいたり。
そんなことさえも楽しく感じた。
 
その夜、旅に出たことを旅人に報告した。
予想通り旅人は喜んでくれた。
 
でも、次の日は動くことができなかった。
その次の日も、そのまた次の日も。
 
「旅はもうやめたのかい?」
旅人から連絡が入った。
「そういうわけじゃないのですが…」
 
何もわからないうちは闇雲に進むことができた。
だけど、ほんの少しでも知ってしまうと、
考え過ぎてどう動いていいのかわからなくなってしまったんだ。
 
「とりあえず進めばいい。少しずつでも毎日ね」
旅人はその言葉とともに一冊の本をくれた。
 
その本には、旅人が旅の中で得た知識がぎっしりと詰まっていた。
 
『もう少し進んでみよう』
僕はそう思うことができた。